「施設管理って、どんな仕事してるの?」
「設備管理とか似たような言葉が多いけどどんな仕事してるの?」
施設管理業界を調べるとこんな疑問を持ったことはありませんか?
この記事では、施設管理歴18年、認定ファシリティマネージャー有資格者である筆者が、専門用語をかみ砕き、現場のリアルな話を交えながら、施設管理の仕事の全体像をわかりやすく解説します。
この業界で働くことを目指す方のお役に立てれば幸いです。
施設管理とは、一言でいうと「建物の価値を守り育てる司令塔」

施設管理は、商業施設やオフィスビル、病院、工場といった建物を安全・快適・効率的に使い続けるために、建物の状態を総合的に管理・改善する仕事です。
建物には空調・電気・水道・防災・清掃・警備といった多くの仕組みが常に動いています。これらすべてを統括し、「安心して使える環境」を保つ——それが施設管理の役割です。いわば、建物の健康と価値を守る司令塔のような存在といえるでしょう。
たとえば、あなたが毎日利用するショッピングモールが、いつも清潔で、空調が快適で、エレベーターが正常に動いているのは、施設管理のプロが裏側で支えているからです。
施設管理の役割:「守り」と「攻め」
施設管理の役割は「守り」と「攻め」の二つに分けられます。
【守り】建物を安全・快適に保つこと
- 法律を守るための点検計画の策定
- トラブルに備える警備・防災計画の実施
【攻め】建物の収益や価値を最大化すること
- テナントとのやり取りを通じた満足度向上
- 予算管理とコスト削減の提案
施設管理を支える3つの柱
施設管理を支える柱は、設備管理・警備・清掃の3つの主な内容と目的です。
| 分野 | 主な内容 | 目的 |
| 設備管理 | 空調・電気・給排水などの 運転監視、保守点検、 トラブル対応 | 建物の「機能」を維持 |
| 警備 | セキュリティ機器の監視、巡回、出入管理 | 建物の「安全」を守る |
| 清掃 | 日常清掃、定期清掃、衛生管理 | 建物の「快適さ」を保つ |
3つの柱が連携することで、建物全体が最適な状態で運営されるのです。
これらは施設管理の実務領域であり、特に設備管理については後ほど詳しく説明します
【図解】これでスッキリ!施設管理・設備管理・ファシリティマネジメントの違い

施設管理を学び始めると、似たような専門用語が多く出てきて混乱することがあります。ここでは、それぞれの違いをわかりやすく整理して解説します。
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設備管理と施設管理の違い:施設管理のほうが範囲が広い
結論から言うと、施設管理のほうが設備管理よりも広い範囲をカバーしています。
【設備管理】
建物内の設備に特化した現場での実作業がメイン。空調設備の運転監視、電気設備の保守点検、給排水設備のメンテナンス、トラブルが起きた際の修繕対応などを行います。ビルメンテナンス(ビルメン)と呼ばれることも多く、技術的なスキルが重視される分野です。
【施設管理】
設備管理を含みつつ、さらに広い視点で建物全体をマネジメント。清掃計画の策定、警備体制の構築、テナント対応、予算管理、オーナーへの報告と提案など、経営的な視点を含む業務を担当します。
つまり、設備管理が「現場のお医者さん」だとすれば、施設管理は「病院全体を運営する院長先生」のような役割といえるでしょう。
ファシリティマネジメントとの違いは「視点の高さ」
この違いを理解するポイントは「視点の高さ」です。
【施設管理】
個別の建物を対象とした管理業務。特定の商業施設やオフィスビルといった「一つの建物」の維持管理、運営改善、価値向上に焦点を当てています。
【ファシリティマネジメント(FM)】
企業が保有するすべての施設(不動産)を対象に、経営戦略の視点から最適化を図る業務。複数の建物をどう配置するか、どの施設に投資すべきか、全社的なコスト削減をどう実現するかといった、より高い視点での意思決定を行います。
施設管理が「院長先生」であるなら、ファシリティマネジメントは「医療法人の理事長」といえるでしょう。
補足:プロパティマネジメント(PM)との関係
プロパティマネジメント(PM)は、収益不動産の資産価値を高めることに特化した業務です。賃貸収入の最大化、テナント誘致、資産価値の向上など、不動産オーナーの利益を最優先に考えた管理を行います。
施設管理と業務内容は重なる部分もありますが、プロパティマネジメントは特に投資用不動産や賃貸物件において、収益性を重視する点が特徴です。
施設管理のリアルな仕事内容と1日の流れ

施設管理の仕事に興味を持った方が次に知りたいのは、「実際にどんな業務をしているのか」「1日の流れはどうなっているのか」という具体的な内容でしょう。
施設管理員の主な業務は4つ!
施設管理の業務は、大きく4つのカテゴリーに分けられます。
①建物・設備の維持管理
日常的な設備の点検、突発的なトラブルへの対応、中長期的な修繕計画の策定などを行います。エレベーターの定期点検スケジュール管理や、空調機器の異常を早期発見して大きな故障を防ぐといった業務が含まれます。
②テナント対応
日常的な要望のヒアリング、クレーム対応などを担当します。テナントが快適に施設を利用できるよう、窓口となってコミュニケーションを取ることが重要な役割です。
③各種業者との連携
清掃会社、警備会社、設備工事会社など、多くの専門業者と協力して施設を運営します。業者の作業スケジュール調整、品質チェック、見積もりの精査などを行い、適切な業務遂行を管理します。
④報告書作成とオーナーへの提案
施設の運営状況をレポートにまとめ、オーナーや経営層に報告します。さらに、予算管理やコスト削減の提案、建物の価値向上につながる改善策の提示なども行います。
【1日の業務の流れ】施設管理担当者のリアルスケジュール例
実際の施設管理担当者の1日を見てみましょう。ここでは、筆者が経験した商業施設を管理する担当者の典型的なスケジュールを紹介します。
【午前】
- 朝礼とメールチェック(前日の引き継ぎ事項を確認)
- 清掃会社や設備保守業者との打ち合わせ
- 施設内を巡回(清掃状況や設備の動作状態を確認、店舗によるが商品冷蔵ケースがあれば温度チェック含む)
【午後】
- 管理物件の定期巡回やテナント訪問
- 計画修繕作業や法定点検実施(自社実施分)
- 工事業者の立ち会いや修繕箇所の確認
- 報告書作成、オーナーへの月次レポートや改善提案資料をまとめる
【夕方】
- 翌日の準備(業者への連絡事項の整理、スケジュール確認)
- 日報の作成、後日対応の優先度確認
※これは日中勤務の一例です。施設の種類(病院、データセンター、商業施設など)によって勤務形態は異なります。多くの施設管理会社では、ライフスタイルに合わせて勤務形態を選べる職場も増えています。
このように、施設管理の仕事は多岐にわたり、デスクワークと現場業務のバランスが取れた職種といえるでしょう。
未経験でも大丈夫!施設管理で役立つスキルと有利な資格

施設管理の仕事に興味を持った方が気になるのは、「未経験でも始められるのか」「どんなスキルや資格があれば有利なのか」という点でしょう。
スキル:一番大事なのは「コミュニケーション能力」
施設管理で最も重要なスキルは、意外にも技術力ではなくコミュニケーション能力です。なぜなら、施設管理の仕事は多くの人と関わりながら進めるものだからです。
①聞く力と話す力
テナントからの要望を正確に聞き取り、オーナーに状況をわかりやすく報告し、業者に的確な指示を出す。これらすべてにコミュニケーション能力が求められます。相手の立場に立って考え、適切な言葉で伝える力が、円滑な施設運営の基盤となります。
②調整力と交渉力
修繕工事と他の作業時間が重ならないようスケジュールを調整したり、工事費用の見積もりについて業者と交渉したりする場面が日常的にあります。複数の関係者の利害を調整し、全体最適を実現する能力が求められます。
③基本的なPCスキル
報告書の作成にはWordやExcel、場合によってはPowerPointを使います。特にExcelでの予算管理やスケジュール管理は頻繁に行うため、基本的な関数や表作成のスキルがあると業務がスムーズに進みます。
これらのスキルは、未経験からでも日々の業務を通じて十分に身につけることができます。技術的な知識は働きながら学べるため、まずは人と関わることが好きで、問題解決に前向きに取り組める姿勢があれば、施設管理の仕事は十分にスタートできるのです。
資格:持っていると転職・昇進に有利!
施設管理の仕事は資格がなくても始められますが、資格を持っていると転職や昇進で大きなアドバンテージになります。ここでは、キャリアステージ別におすすめの資格を紹介します。
【入門編】ビルメン3点セット
- 第二種電気工事士
- 第三種冷凍機械責任者
- 二級ボイラー技士
これらは設備管理の基礎知識を証明する資格で、未経験者の就職活動でも評価されます。特に第二種電気工事士は、電気設備のトラブル対応や業者の見積もり内容を理解する際に役立ちます。
【上級編】3種の神器
- 建築物環境衛生管理技術者(ビル管理士)
- 電験三種(第三種電気主任技術者)
- エネルギー管理士
特にビル管理士は、一定規模以上の建築物に選任が義務付けられているため、取得すると給与アップや管理職への昇進が見込めます。試験は難易度が高いですが、実務経験を積みながら計画的に学習すれば合格は十分に可能です。
【番外編】認定ファシリティマネジャー(CFMJ)
施設管理の戦略的・経営的側面を学ぶ資格で、キャリアの幅を広げることができます。大規模施設の統括管理者や、企業のファシリティ部門でのキャリアを考えている方には特に有効です。
筆者は18年勤めた知識や経験を形にしようと思い受験を決意しました。
資格取得には時間とお金がかかりますが、長期的に見れば年収アップや仕事の選択肢拡大につながる投資といえるでしょう。
施設管理のやりがいと将来性

施設管理という仕事を選ぶ前に知っておきたいのが、「この仕事のやりがいは何か」「将来性はあるのか」という点です。
この仕事の「やりがい」は?
施設管理の仕事には、他の職種にはない独特のやりがいがあります。それは、人々の生活や仕事を「裏側から支えている」という実感です。
①「ありがとう」と直接感謝される喜び
テナントから「おかげで快適に仕事ができます」と言われたり、商業施設の利用者から「いつもキレイにしてくれてありがとう」と声をかけられたりする瞬間は、何にも代えがたい達成感があります。自分の仕事が誰かの役に立っていることを日々実感できる職種です。
②自分の仕事が「街の景色」を支えている実感
毎日通勤で通る駅前のビル、家族で訪れるショッピングモール、地域のランドマークとなっている施設。これらの建物が安全で快適に使われ続けているのは、施設管理のプロフェッショナルたちの努力があるからです。自分が担当する建物が地域に愛される場所になることは、大きな誇りとなります。
③トラブルを解決した時の達成感
突然の設備故障、急なテナント要望、予期せぬ災害対応など、予測不可能な問題が発生します。限られた時間と予算の中で最適な解決策を見つけ出し、関係者と協力して問題を解決したとき、自分の成長を実感できます。
時代の変化に対応しながら進化する仕事です
施設管理の将来性について結論から言えば、この仕事の需要は今後ますます高まっていくと考えられます。その理由は大きく3つあります。
①建物の老朽化に伴う維持管理の重要性の高まり
日本では高度経済成長期に建てられた多くの建物が老朽化しており、適切な維持管理なしには使い続けることができません。新築よりも既存建物の長寿命化が重視される時代において、施設管理のプロフェッショナルの価値は確実に上がっています。
②DXやIoT技術の導入によるスマート管理
センサーによる設備の遠隔監視、AIを活用した故障予測、ビッグデータを使った省エネ提案など、テクノロジーを活用した施設管理が広がっています。これらの新技術を使いこなせる施設管理者の需要は、今後さらに増加するでしょう。
③省エネやSDGsへの貢献が期待される分野
建物のエネルギー消費削減、再生可能エネルギーの導入、廃棄物の適切な処理など、環境への配慮は企業の重要な課題となっています。施設管理は、企業の環境目標達成に直接貢献できる職種として、その重要性が認識されつつあります。
このように、施設管理は時代の変化に対応しながら進化し続ける、将来性の高い仕事なのです。
【まとめ】施設管理は、未来の建物を創るクリエイティブな仕事

この記事では、施設管理の仕事について、基本的な役割から具体的な業務内容、必要なスキルと資格、そしてやりがいと将来性まで幅広く解説してきました。
施設管理は単に建物を「守る」だけの仕事ではありません。テナントの満足度を高め、建物の価値を向上させ、環境に配慮した運営を実現する、価値を「創造する」クリエイティブな仕事です。多くの人と協力しながら、目に見える形で成果を出せる点が、この仕事の大きな魅力といえるでしょう。
未経験からのスタートでも、コミュニケーション能力と学ぶ意欲があれば十分に活躍できる業界です。資格を計画的に取得し、実務経験を積みながらスキルを磨いていけば、着実にキャリアアップできる道が開けています。
建物は人々の生活や経済活動の基盤であり、施設管理はその基盤を支える重要な仕事です。
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